機内食にも手をつけず…。

福岡からバンコク、そしてコペンハーゲンに入り、
ヘルシンキを経由してようやくリガ(ラトビア)に到着した。
マイルを利用したせいでとんでもなく遠回りな経路になってしまったけれど、
長時間のトランジットはけして嫌いではない。
見たこともないロゴが描かれた飛行機や、不思議な民族衣装を着た人や、
ビールやワインを傍らにそういうのをぼうっと眺めていると、
煩わしい日常をすっかり脱ぎ捨てた気分になれる。
ただ。
ここまで乗り継ぎを繰り返すと、
トランジットこそ旅の醍醐味よねなんて
悠長なことは言ってられなくなった。
福岡を離れる時の、あの意気揚々とした気分はバンコクでの9時間のトランジットで
すでに消え失せてしまっている。
旅の準備やら仕事の段取りやらで寝不足が続いた体に、
タイの空港特有の容赦ないエアコンは真冬の山頂の我慢大会のようだ。
あまりの寒さにビールを飲む気にもなれず、大好きなタイ料理も口に入らない。
疲れ果てたままコペンハーゲンに着き、空港のカフェで食べた。ペラペラなサンドイッチの値段に驚きつつ(2,400円!)、
ヘルシンキでなんとか元気を取り戻し、小さなプロペラ機でようやくリガに到着した。

ラトビア行きのフィンエアーは、いつかラオスで乗って怖い思いをしたATR72というプロペラ機。

最初に向かう旅先で、かならず決めていることがある。
できるだけ明るい時間に着く飛行機を選ぶこと、
宿泊先まではタクシーを使わずになんとしても自力で行くこと。
空港から宿に向かう途中、たいていバスの中から眺めることになる街の景色は、
これからしばらく過ごすその国の第一印象だ。
素敵な街並みにときめいたり、自然がいっぱいでうれしくなったり、
怪しい雰囲気にちょっと恐怖を覚えたり(ときどき後悔したり)。
初めての出会いなんだから、ここはそう、
タクシーなんかでスルッと行ってはいけないのだ。

リガに着いたのは午後4時過ぎだった。空港のまわりはほとんど何もなく、
いくつかのバス停をうろうろしながら、旧市街に行くバス停にたどり着いた。

コペンハーゲン行きの深夜便の搭乗口付近にて。わたしも地べたで寝てみる。

タクシーなんかでスルッと行ってはいけない。

ただ、ここから宿に着くまでが毎回、旅の最初の難関になる。
予約している宿はたいていアパートだから、看板はほぼない。
グーグルマップで場所はわかっても、
アジアやヨーロッパの古い街は迷路のように入り組んでいたり、
GPSがうまく起動しなかったりで、部屋に着くまでにものすごく時間がかかってしまう。
なんとかアパートに着くことができても、指定された場所に鍵がない、ドアが開かない、
オーナーが約束の場所にいない、そんなことはこれまで何度も経験してきた。
日本じゃ考えられないけれど。
おまけにわたしは救いようのない方向音痴で、今回も覚悟はしている。

まもなくやって来たバスは清潔で新しく、行き先もちゃんと英語で表記されている。
まずはひと安心。
1年でいちばん美しい初夏のリガ。
車内はサングラスをかけた背の高い欧米の観光客でいっぱいだ。

緑につつまれた公園、落書きが目立つ古いマンション、
どでかいロゴの大型スーパー、マクドナルドにガソリンスタンド。
とくに目新しい風景ではないけれど、逆にそれが安心だったりもする。
車窓を眺めるかたわらでグーグルマップを凝視しながら、
アパートのある旧市街にいちばん近いバス停で降りて、さぁ、ここからは徒歩。
行く手に立ちはだかる地下道の急階段に、大きなリモワを
半ば突き落とすような勢いで階段から転がし、
綱引きでもしているような気分で引っ張り上げて地上に出ると、
そこに広がっていたのは、それはそれは美しい、
中世を思わせるような石畳の街並みだった。
車がようやくすれ違える狭い道の両側に、かろうじて歩ける程度の小さな歩道。
通りの両側に並んだカフェは、どこも歩道をさえぎるようにテーブルを並べている。
夕暮れだというのにまったく衰える気配のない太陽の光の中で、
おおぜいの人たちがビールやワインを飲みながら、
1年でいちばん美しい初夏のリガにつつまれていた。

投稿者: stabi@sawa

編集者・コピーライター。 趣味は海外の旅。1年に数回、思いついたところにふらりと出かける無計画な旅によるさまざまな失敗を重ねてもなお、旅熱は冷めやらず。

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